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タワマンの子どもは成績が伸びにくい?塾教師が気づいた真実

日本では、2000年以降、タワーマンションが乱立する状態になっている。空き家が急増する中、これ以上、大量に住宅を供給する必要はあるのか?またマンションには欠かせない大規模修繕も、タワマンは多額の費用がかかり、破綻の兆しを見せている。いま、タワマンは「限界」にきていると、住宅ジャーナリストは指摘する。本連載は榊淳司著『限界のタワーマンション』(集英社新書)より一部を抜粋、編集した原稿です。

 

なぜタワマンで育った子どもに近視が多いのか

 

タワマンに住むと心身の健康に支障をきたす?

 

日本で少しずつ高層マンションが建ち始めた頃、高層居住と心身のストレスの関係性を調べた研究者がいた。1981年、日本建築学会に発表された論文「超高層住宅居住者の住環境ストレスと健康2」の執筆者、渡辺圭子氏と山内宏太朗氏である。

 

そのまとめのところには、「住環境ストレス度と心身健康度はかなり高い相関関係を有する」とある。残念ながら、現在に至るまでそれに続く研究が見られない。これだけタワーマンションが急増した現代において、ますます必要な研究ではないだろうか?

 

実際に、私が不動産業者と話す中でも、ある一定の割合で、高層階に住み始めて体調を崩し、短期間で引っ越す人の話を聞く。

 

本記事では、タワマン居住がもたらす健康への影響や子育て上のリスクを取り上げた。現在タワーマンションで子育てをしている人や、これから引っ越しを検討している人はぜひ読んでほしい。

 

タワーマンションで育つと近視になりやすい?

 

慶應義塾大学医学部眼科学教室の教授である坪田一男氏は『あなたのこども、そのままだと近視になります』(ディスカヴァー携書)という著書の中で次のように書いている。

 

《オーストラリアとシンガポールでは、同じ中国系人種であっても高層マンションに住む子どものほうに明らかに近視が多いことが分かっています。》

 

また、同書によれば、「数ある『近視のエビデンス』の中でも、唯一確かだとされているのが『外で遊ぶと近視になりにくい』というものです」とある。

 

医学博士の織田正昭氏の著書『高層マンション子育ての危険』(メタモル出版)によると、集合住宅と1戸建て住宅に住む子どもの外遊び時間を比較すると、集合住宅で特に6階以上の高層に住む子どものほうが、1日あたり0.6時間少ないことが分かる。こうしたことも、子どもの近視に何らかの影響を与えているのではないだろうか。

 

「25階以上で生存率ゼロ」

 

このほかにも、カナダの医師会誌「CMAJ」に掲載された衝撃的な調査結果がある。心停止で病院に運び込まれた人のうち、生きて退院できた割合を調べたものだ。1~2階の居住者が4.2パーセントだったのに対して、3階以上の住民では2.6パーセント。そのうち16階以上の住民は0.9パーセントであり、25階以上になると、なんと0パーセントであった。

 

心肺蘇生は一刻を争う。高層階ほど、救急隊員が駆け付けて病院に搬送するまでの時間が長くなってしまうことが影響しているのかもしれない。

 

この調査は、子育ての環境とは直接の影響はないかもしれないが、高層階ほど搬送に時間がかかることはデメリットとして挙げられるだろう。

 

なぜタワーマンションで育つと成績が伸びにくいのか

 

タワマン育ちの子どもは「高所平気症」になる

 

高いところから落ちると、人は死ぬ。

 

これは当たり前の真実である。誰もが知っている、というか感覚として身に付けている。しかし、そうした感覚はもはや常識ではなくなりつつあるのかもしれない。

 

前述したように日本人が本格的に3階以上の階層があるマンションに住み始めたのは、概ね1960年代以降である。その頃から、高層階から子どもが転落する事故が多発した。当たり前である。高いところに住む人が多くなれば、誤って落ちる人も出てくるだろう。

 

しかし、子どもの事故が多すぎることに気付いた人もいた。

 

一群の専門家たちが、そのことを具体的に調べた。

 

財団法人未来工学研究所は1971年に設立された文科省(現・内閣府)所管の研究機関である。彼らが1985年2月に行った調査によれば、高層集合住宅の小学生342人に対して行ったアンケートにおいて、4階以上に住む子の7割以上が「ベランダや窓から下を見ても怖くない」と回答したという。同研究所の資料情報室長(当時)であった佐久川日菜子氏が、こういう子どもの感覚を「高所平気症」と名付けた。

 

高所平気症は4歳頃までに高層階で育った子どもに多く見られるという。

 

「タワマンの子どもは成績が伸びにくい」

 

タワーマンション高層階に育つ子どもは成績が伸びないと話す教育の専門家もいる。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康氏だ。

 

彼は中学受験指導とプロ家庭教師の経験が40年以上。かつては都内の高級住宅地の家庭を訪れることが多かったが、ここ数年増えているのが都心のタワーマンションの上層階。

 

はじめは、西村氏も「たまたま」だと思っていたそうだ。それが次第に「あれ? なぜだろう」と思うようになったという。そして今は、「タワーマンションの上層階に暮らす子どもは、成績が伸びにくい」と、ほぼ確信するに至ったようだ。

 

タワーマンションの上層階に住むにはそれなりのコストがかかる。タワマンの購入者にはニューカマーの成功者が多い。彼らは優秀であったからこそ、東京という大都会にやってきてそれなりの成功を収めたはずだ。

 

そして自らの努力によって得た成功を、自身の子どもにも望むのは当然だろう。学歴社会を生き抜くために教育への投資を惜しまないはずだ。それだけ熱心であれば、子どもも優秀である可能性が高い。

 

タワーマンションで暮らすことで子どもが失うもの

 

にもかかわらず、中学受験の専門家が「タワーマンションの上層階に暮らす子どもは、成績が伸びにくい」と確信に近いものを持った理由は何なのか。

 

西村氏は、それはタワーマンションに暮らす子どもは外に出たがらないからだと考える。以下、彼のインタビュー記事を引用する。

 

《外に出るのが面倒な子は、世界が広がらない。小学生の学習には、イメージが不可欠だからだ。子供は自分が体験したことや見たものでないとイメージできない。イメージができないと頭の中に知識が入りにくいし、そもそも問題を理解できないこともある。だから、実体験の乏しい子は、成績が伸びにくい。(中略)小学校で学ぶ勉強も、中学受験の勉強も、学びの根底にあるのは「自然」と「生活」だ。小学生の学びにそこが欠けていると伸び悩む。成績の伸び悩みは、子供自身の能力よりも環境によるところが大きい。あまり表に出ない、子供をめぐる環境の実態を伝えていくのも、家庭教師の役目だと思っている。

 

(「タワマン上層階の子『成績は低迷』の理由」プレジデントオンライン、2018年9月7日)》

 

子どもが高層居住によって失うもの

 

「住宅総合研究財団研究論文集」(№36、2009年)に「現代の子育て・子育ちからみた超高層居住に関する研究」という論文がある。副題は「乳幼児と学童期の子どもの成育環境から考察する」とある。筆頭著者は摂南大学工学部(現・理工学部)建築学科准教授(現・教授)の大谷由紀子氏。この中に興味深い記述があるので引用する。

 

《首都圏の超高層マンションが急増する地区の保育所園長に子どもの発達に関する質問を行った。現段階では高層居住による影響は認識されていないが、「親の価値観に違いを感じる」「段差の経験が乏しい(フラットな住戸からエレベーター、ベビーカーを乗り継ぐ)」「バランス感覚が育ちにくい」「コンシェルジェがいるため自分でドアを開けない」などの印象が語られた。子ども全体には「高所を怖がる慎重派の子どもが圧倒的に多い」「生き物の飼育を面倒がる子が増えた」「住んでいるマンションで経済格差が分かる、子どもの間でもそのような会話がある 」(傍点筆者)などの所見が示された。また、「子どもが土に触り、空を見上げ、木の実を採る唯一の場所としても園庭は何よりも重要」であり、マンション下の保育施設に園庭の必要が強調された。》

 

 

 

「高所を怖がる」との記述は前述の「高所平気症」の所見とは異なるものの、生活体験の乏しさは西村氏の観測と一致している。

 

自然に触れて伸び伸びと育てば普通に理解でき、身に付けられる人間としての基本的な感覚を、タワーマンションの上層階で育つことで失ってしまっているとしたら、それは至極残念なことである。

 

榊 淳司

住宅ジャーナリスト

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/e3c7b8180d030438c11d03c2539555f03649c578?page=1