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「築61年のマンション」建て替え成功で分かった腐動産の末路

新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

 

 

マンション建て替えに成功したのはわずか226棟

 

2017年、東京都新宿区四谷本塩町にある、日本初の民間分譲マンション四谷コーポラスが建て替えられることになった。 このマンションが分譲されたのは今から64年前の1956年。建て替えで解体される時点で築61年だ。JR「四ツ谷」駅から徒歩5分の好立地。外堀通りの喧騒からも離れた閑静な住宅街にある。延のべ床面積は2290㎡(約693坪)、総戸数28戸。分譲主は日本信販株式会社だ。

 

マンション関連の法律の骨格をなす区分所有法が施行されたのが1962年であり、管理方法も含めてマンションというシステムがまだ構築されていない段階だったこと、かつ住宅ローンの制度がない中、日本信販による割賦販売という仕組みを導入しての分譲事業という意味で、このマンションの存在は日本のマンションの歴史そのものといってもよいだろう。 このマンションの解体に先立ち、内部を見学させていただく機会を得た。地上5階建ての建物内部は、1階と4階にしか共用廊下がなく、メゾネットタイプの住戸を組み合わせた斬新な構成になっている。つまり、1、2階がメゾネットで組み合わせ、さらに4階を玄関として3、4階のメゾネットと4、5階のメゾネットを組み合わせた、昔流行(はや)ったルービックキューブのような構成の建物だ。

 

こうした形態を取ることによって、当時では考えられないほど広い70㎡以上の面積を確保した住戸を実現できたのだ。 築61年を迎える建物はさすがに外壁やサッシ、配管などの老朽化は目を覆うばかりだが、木製のサッシや住戸内部の建具デザイン、学校と見紛うような幅広の共用階段など、「レトロ」と呼ばれてもよいほどの趣 おもむき を随所に感じさせる建物となっている。 建物に対する建築学的なノスタルジーは他者の評論に譲るとして、この建て替えがどうして実現できたのかを考えてみよう。 四谷コーポラスの管理組合では2006年から10年間にわたって、大規模修繕または建て替えの検討を進めてきたが、建物の耐震性の確保は難しいと判断し、建て替えの決議を行なったという。 現在、国内では約106万戸の旧耐震マンション住戸が存在している。国土交通省によれば2014年4月時点で、全国で建て替えが行なわれたマンションはわずか226棟にすぎない。 昔のマンションは規模が小さいものが多いので、1棟が平均50戸としても建て替えの恩恵にあずかった住戸は1万戸強。旧耐震マンション全体の1%ほどということになる。それほどマンションの建て替えは、さまざまな事情により進んでいないということだ。

 

築61年マンションが建て替えに成功した理由

 

本件は建て替えを行なっても、現状よりも容積率(土地面積に対して建設できる建物面積の割合)が1.2倍程度にしかアップしないという。28戸の住戸は建て替え後は51戸になり、このうち23戸が権利者住戸、残りの28戸が新たに分譲される予定だ。建て替えにはメリットは少なく、通常ではなかなか合意形成が図れないものと推察されるが、実際には権利者の9割が建て替え後のマンション住戸の床を持つことに同意した、とのことだ。

 

四谷コーポラスが建て替えを成功に導けた理由は、何だろうか。

 

1.立地 建て替え後のマンションにも十分な不動産価値があれば、分譲部分を高値で売却できる。高値で分譲できれば、建て替えにあたって区分所有者の追加負担は少なくなる。 マンションは、建物部分について経年で劣化してしまうので不動産価値はどんどん下落してしまうが、土地の価値が保たれている立地であるならば、建物さえ新しくすれば、現在の時価で販売することができるのだ。 2.区分所有者の多くが富裕層であること 建て替えにあたっては、区分所有者が経済的に困窮していないことが必要だ。高齢化等により健康を害していても、建て替え期間中は医療機関や他の施設に移転ができるなどの条件がそろうことも必要だ。また、容積率緩和が十分でなく、建て替えにより新たな追加負担を求められたとしても、負担できるだけの経済的余裕があることが建て替えを可能にする。

 

 

3.「代替わり」が行なわれていること 四谷コーポラスの区分所有者はその多くが、途中で第三者に売却されずに相続されてきたそうだ。そして二代目、中には三代目が実際に住んでいるという。棟内に展示されていたマンション内の写真を見ると、築30年以上を経過した1988年当時の写真でも、大勢の子供たちが棟内を駆け回る姿が写し出されている。 相続された上で、子供や孫たちが実際に「住んでいる」ということは、マンションが故郷となり、所有者に愛されているということの証左だ。 4.コミュニティーが保たれていること 上記に加えて戸数がわずか28戸という小所帯であることから、「昔からよく知る」人たち同士でコミュニティーが形成され、しかも三世代にわたる老若男女が自分たちの資産であるマンションの不動産価値をアップさせるために、「建て替え」という手法を選んだことが容易に想像される。

 

さて、建て替え率1%のマンション。 上記のような要素が備わった物件はどれほどあるだろうか。

 

郊外立地で子供や孫には見向きもされなくなったマンション、1棟が数百戸もあり中国人投資家が闊歩する湾岸タワーマンション、高齢者ばかりで何事も決められない管理組合、クレームばかりでコミュニティーに参加しない区分所有者の存在。 これらのマンションで、築30年を超えても3世代の老若男女が集い、築年数が60年の還暦を迎えるときに、全員で自分たちの財産を守り抜こうという気持ちになれるであろうか。 マンションを買うということは、「コミュニティーを買う」ことと同義なのだ。

 

牧野 知弘

 

オラガ総研 代表取締役

 

牧野 知弘

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/3e8d0befc184ea6eae9c41b292653aa35a8846a1?page=1